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効率重視ではなく、社会のために良いことが正しいと言える世の中を目指して/代表取締役社長 海老澤 観 Ebisawa Kan効率重視ではなく、社会のために良いことが正しいと言える世の中を目指して/代表取締役社長 海老澤 観 Ebisawa Kan

2021.02.19効率重視ではなく、社会のために良いことが正しいと言える世の中を目指して/代表取締役社長 海老澤 観 Ebisawa Kan

MICでは、Can We Make a Better Future Together?を掲げ、より良い社会の実現のために、Good Impactを与えられるスタートアップ企業への投資を通じて、Better Futureの実現を目指しています。

そんなMICのメンバーは、日々どんな想いで投資先企業へ伴走し、どんなBetter Futureを想い描いているのか。

初回は、代表取締役社長の海老澤に聞いていきます。

自分が決めないーそう決めて、社長を引き受けた

――MICの社長就任の話、実は寝耳に水だったそうですね?

そうそう(笑)前職のソニー時代に急に人事の担当役員に呼ばれて、この会社興味ある?って聞かれたんですよ。その時は社長だなんて知らないから、「まあ、技術アドバイザーとか、そんな話のオファーだろうな」と思って、何か役に立てることがあるなら引き受けようって。

その後、しばらくして面談があって初めて社長だって言われて、予想すらしてなくて「はあ?」ってなったわけですが(笑)

―面食らいつつも引き受けたんですね。

基本的に断らないんです。自分が今まで培ってきたものを、より社会に還元していくことが役割だと思ってるから。実際、断らないことでどんどん可能性が広がっている。よく世の中の指南書に「目標を決める」ってあるでしょ。今の自分はここに居て、目標とする場所までの間をどう埋めていくか考えましょうっていう。私はこれを考えている間に人生終わっちゃうタイプなんですよ(笑)

―なるほど、私も考えるよりも先に飛び込むタイプです(笑)

目標をまず決めるやり方を、自分では積分法って言ってるんです。それに対して、目標とかどうでもいいから、成長率マックスを目指すのを微分法って名付けていて。環境変化が大きいほど、成長率も大きくなる。間違った方向に行ったと思ったら戻れば良いだけだし、経験は後で絶対使えるので何か話が来た時に断ることは、ほとんどないですね。ソニー時代でも断ったのは一回しかない。自分で立ち上げた医療系事業部の企画の仕事をやらないかと言われて、その時は医療系の英語をいまさら覚えたくないと思って断りました。根が横着なもので(笑)

――マネージメントは前職でもされていたものの、投資業界は初めてということで大変なこともあったのでは?

投資分野が初めてだったのもありますけど、メンバーが全員、自分を「律する」ことができる人たちだったので、危ないことはしないと思いました。「自律」できているなら、次は「自立」だという想いで、社長になる時に「自分は決めない」って決めたんですよ。メンバー本人がやりたいって言うなら「やってみたら」と言う。言われたことをやるんじゃなくて、自分たちで考えて自分たちで動く風土を作っていかないと、本当の意味で強い組織にはならないですからね。失敗したり問題が起きたりしたら、そこでフォローアップすれば良いだけの話でしょ。だから、「問題が起きても社長が謝ればどうにかなる」って言ってたんだけど、「金融業界はそんなに甘くありません。謝って済む問題じゃないです」って怒られたこともありました(笑)

―関係性が窺えるエピソードですね(笑)

でも真面目な話、失敗したくないと思うとチャレンジできなくなって、小さく固まってしまうので、マネージメントっていい加減なところも必要だと思ってて、「失敗してもいいや」ぐらいの感覚を持てるようになるかどうかって結構大事だと思ってます。

例えば、自分の専門領域ほど経験があるために、「これ失敗するよな」とか「(経験上)難しいよな」と思って一歩踏み込むことができなくなってしまう。そこを乗り越えて、ひとまずやってみよう!ってなると、仮に失敗してもそこから学ぶことって多いでしょ。うちのファンドに投資している人には大きな声で言えないけど(笑)上手くいかなかった時に一生懸命泳ぐからこそ、みんな成長するんですよ。

私が手を出すと成長を阻害する場合もあるのですよね。そこで「まあ失敗してもしょうがないよね、全部成功するわけじゃないよね」くらいの感覚が持てるか。社長が「大丈夫」と思ったものしか実行できない会社って社長の枠で会社の可能性が決まっちゃう。でも、上手くいく保証はないけど任せてみようって出来るトップのいる会社は、枠を超えた会社になれると思うのですよ。

本人ですら気付いていないかもしれない企業の真の価値を見極める

――MICはスタートアップの「コアとなる強み」に注目して投資検討していると以前話していましたよね。何かコアとなる強みが突出してあれば、他に少し不安要素があっても強みを優先するという意味ですか?

そうはならないのが投資かな。新規事業を見る上で最も大事なのは、一番いいところを見るということ。不安要素は挙げ始めたら幾らでも出てくるけど、そこでポジティブ思考で見れるかどうかが大事。どこがこのスタートアップの一番の価値なのか。ひょっとしたら本人たちもコアと思ってないところが一番の価値かもしれない。本人たちも気づいてないところが強みかもしれない。そこが何かを見極めて、そこを中心に検討しないといけない。

不安要素もあるけど、これさえ直せばいけるかもって言うんだったら投資の可能性が出てくる。ところが、駄目なところを先に見ちゃうと全て落ちちゃう。この会社の真の価値は何なのかを見極めるのが大切。投資を検討するベンチャー企業ってやっぱり何かしらいいところがあるもので、自分のお金だったら投資したいところだらけ。問題は、人のお金を預かってるっていうこと。それがあるのでまだブレーキがかかっているんです(笑)

――投資先を検討する際、ソニー時代の経験が生きているんですか?

それもあるかな。新規事業の立ち上げに沢山関わってて、その中には最終的には潰したものも沢山あります。絶対できないという証明はできないので、逆に可能性について徹底的に探る。そして、それを実現するために課題を洗い出し、そこをクリアする為に徹底的にサポートします。だからと言って、その課題をクリアできるとは限らない。どうしても、その課題がクリアできない時にはあきらめる。それって、実は外部要因だったりしてね。このあたりは、今のキャピタリストに通じるところではないでしょうか。

――MICのキャピタリストたちは、自分たちを「サポーター」とか「黒子役」と表現していましたが、キャピタリストとしてベンチャー企業の経営者の方とのコミュニケーションでどんなことを心がけていますか?

まず一番は、世の中ではお金を出してるほうが偉いっていう風潮があるから、それは気を使わなきゃいけないと思ってる。出す側と受け取る側は、本来、等価交換だから、どちらが偉いということはないはずなのですけどね。でも、同じことをしていても偉そうに見えてしまうことがあるので注意が必要かと思います

もう一つは、いかにポジティブに相手の良いところを見るか。悪いところの方が見つけやすい。そうではなくて、良いところを探してあげようと常に思ってないといけない。そのためには、相手をリスペクトすることが大事だと思うんですよね。

組織運営でも同じなのですが、「信頼」と「安心」がベースにないといけない。それがない組織って何をやってもダメでしょ。「信頼」と「安心」がないと、怒られないようにするにはどうしたらいいのか、って考えてどんどんダメになってくる。

―子育てと一緒ですね。

そうそう。伸びてもらうためには、「信頼」と「安心」の関係を作ったうえで、本人が「自信」をもってくれないといけない。よく自己肯定感って言うけど、それがものすごく大事。「自信」を持つ過程をちゃんと作ってあげないといけないですね。

そのためにも、ここがダメだっていう話ではなくて「ここが良いです」っていうことをちゃんと伝えてあげる。苦手な部分は誰か他の人が補って、自分が得意なところを一生懸命伸ばしてくださいっていうほうが楽しいに決まってる。ところが日本の教育は「ダメなところをなくしましょう」ってなるから「できてねーじゃねーか!」て高圧的になる。そしてだんだん鬱々としていくと…(笑)

―MICのキャピタリストが寄り添ってくれると勇気が湧いてくる、そういう関係性になると素敵ですね。

そうならなきゃいけないですよね。結局投資した後が我々の本当の仕事。お金を入れることは、ほんの一部の要素でしかない。そのあとどれくらいその会社をよくできるかっていうのが一番のVCの価値だと思ってます。

あくまでも主役はベンチャー企業。MICだからこそ分かる価値を見出すことに存在意義がある

――数あるVCの中でも、MICの一番の特徴は何ですか?

一つはサポートしてきた数が多いということ。上場とかM&Aまで持って行った数が多いとうのは、やっぱり一つの強みだと思うんですよね。

もう一つは、あくまでも自分たちがサポーターだという意識。主役はベンチャー企業。彼らがやりたいことが第一優先されるべきで、それが優先されないと楽しくないだろうし、楽しくないと伸びないと思うから。

―正直、私は他のVC風土が分かんないんですけど、ガチガチに管理されるところもあるんですか?

中にはあると思います。それも相性が合えばいいと思う。うちはリード投資家になる機会が多いので、よりそこにこだわっている。

―MICの印象を第三者に聞くと、変な派手さはないけれども、淡々と他の人がしなさそうなところに投資をしている、そこがちょっと侍的、いぶし銀だよねと言われました(笑)

それも大きなポイントだと思いますよ。みんなが投資する案件だったら自分たちがしなくてもいいんですよ。だって他の人が投資してくれるんだから。うちが投資する案件は、うちだから価値が分かる、MICだからこそ価値を見出せたという点がVCとしても存在意義にもなってくる。あと、理系が多いのも強みかも。みんなそれなりの技術に関して知見がある。

―だからこそ私は皆さんの会話にはついていけてないんですけど(笑)

――MICには異なる業界出身のキャピタリストが多く居てそれが強みでもありますが、海老澤さんならではの強みは?

経験の豊富さと色々な種類の技術を知っていることですかね。ソニーの中で新規事業の立ち上げはいろんな形でやってたし、事業の失敗もいっぱい見てきた。失敗する共通項として、大企業の中で一番起こりやすいのは検証が終わっていないのに組織を拡大すること。それってベンチャー企業も同じで、ベンチャー企業だからこそ色んな所に手を出さないというのが一番大事。いきなり戦線拡大せずに、ここだけ勝負しますっていう風にしないと。あと元々自分はエンジニアだったこともあって、研究所とか開発の企画とかであらゆる分野の技術を見てきた。言ってみれば何でも来い。全く分からない技術、これまでの経験値に当てはまらない技術はいまのところ遭遇したことがないですね。何かしら今までの知見が活かされています。

投資家として以前に、人としてより良い未来を目指したい

――海老澤さんから見るベンチャーキャピタリストの醍醐味、社会的意義とは?

投資先のベンチャー企業が各自色々な事業に取り組んで、それをより良くするためにサポートすることで最後は社会が変わっていく。VCはその変わっていく未来を無限に語ることが出来る。例え自分たちが投資してなくても、誰かが投資した企業が上がってきて未来が変わっていくこともある。この仕事を通じて、あらゆる未来を語れるのが一番ワクワクしますね

――最後に、MICがCan We Make a Better Future Together?と呼びかけているのにかけて、海老澤さんが思い描く Better Futureを教えてください。

言語化するのが難しいけど、言葉にするとしたら効率化という世界から外れた未来かな。今って効率化一辺倒、より軽くてよりスピード重視みたいな世界にどんどん入ってる。でも本質的な変化って効率化の先では、ほとんど実現できない。

―だからこそ、投資は見送っても個人的にサポートすることもあるんですね。

安定成長を続けている方が大事な企業っていうのはファンドのマネーは入れない方がいいこともある。だから、我々は投資はしなくけど、ファンドに投資して頂いている会社に紹介するケースもある。その方が、結果的に彼らが作ったものが世の中に広まるならそれでいい。技術は素晴らしくて世の中を変える力があるんだけど、うちが入れちゃうと上場してとかM&Aをしてっていうリターンが求められちゃう。でも、必ずしもベンチャー企業にとってそれが幸せとも限らないでしょう?お金が儲かる事イコール人間が幸せになる、豊かになるってことではない。自分たちが儲かるか儲からないで決めて欲しくない。世の中を良くする、人間としてやらなければいけないことをやるって言うほうが正しいと言える、そういう世界がいいですね。

writing & photographs by Saki Ariga

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